焙煎レベルありきでないコーヒーの愉しみ方

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深煎コーヒーとプロの味

コーヒー豆の焙煎レベルに気を遣い始めたのは、確か20代半ばくらいの頃である。

当時は、深煎コーヒー全盛時代で、

炭火焼コーヒーなるものも登場し、一世を風靡したものだ。

その頃の私は、コーヒーの新たな「コク」と「苦み」を求め、情報誌を頼りに、

数少ないコーヒー専門店を渡り歩いていた。

まだインターネットが普及し始める前の時代の話である。

当然、第三者による評価情報やコメントなど、参考になる情報はまったく無い。

したがって、記事に紹介された味を確認するには、実際に足を運ぶ以外に方法はなかった。

ところで、私と同年代かそれ以上の人たちのコーヒーに対するイメージは、

おそらくボディの輪郭のハッキリとした深煎コーヒーではないかと思われる。

もちろん、私の行きつけの珈琲店でも、深煎りにしたブレンド豆を粗挽きにし、

ネルドリップで丁寧に抽出するコーヒーを提供していた。

家では味わえぬ、いわゆる「店の味」がそこにはあった。

キリマンジャロの衝撃

いずれにしても、専門店で味わう一杯は、

自宅で抽出したものとは比べようもない飲みものであった。

店のマスターに顔も名前も覚えられた頃、

勧められるがままタンザニアのストレートコーヒーを飲んだ時の衝撃は、今でも忘れられない。

それまで飲んでいたコーヒーとは、まったく違ったフレーバーを感じたのだ。

「これ、何ですか?」

一口味わった後に、思わずマスターに尋ねた。

マスターの紹介では、

「キリマンジャロだよ、中煎のね。2週間ほど前に焙煎したやつさ…」

とのことであった。

「いつものとまったく風味が違っているように感じるのは気のせいでしょうか?」

さらに言葉を続けながらマスターの顔を見ると、彼は満足そうに笑っていた。

焙煎度を表すコーヒー豆
日本での焙煎レベル

自分で焙煎するようになってから思い返すと、

その時味わった中煎のキリマンジャロは、おそらくシティローストあたりだったのだと思う。

マスターは中煎と紹介したが、現在の私ならおそらく「中深煎」と紹介するだろう。

しかし、深煎が全盛時代の当時では、それでも明るめの焼き加減だったのだ。

当時の印象が強いこともあり、

私が好むタンザニアの豆の焼き加減は、今もハイローストかシティロースになるのだが、

カッピングしてみると、案外ミディアムローストが良い豆もあるからコーヒーは面白い。

ところで、ここに登場した「ミディアムロースト」「ハイロースト」「シティロースト」という言葉を

聞いて、コーヒー豆の焼き加減を具体的にイメージできるだろうか?

行きつけの自家焙煎店があれば、その店の焼き具合と一緒に目にする機会も多く

おおよその見当はつくだろうが、そうでない人にとっては馴染みのない言葉のはずである。

なぜなら日本では、コーヒー豆の焙煎レベルを

  • 浅煎
  • 中煎
  • 深煎

の3段階で表すのが一般的だからである。

また、より細分化し、

  • 極浅煎
  • 中深煎
  • 極深煎

を加えた6段階で区分することもある。

確かにこちらの方が、日本人にとっては解りやすい表現だと思われる。

焙煎レベルの違いのフォト
世界標準の焙煎レベル

一方で、世界標準の区分も存在する。

先ほど登場した「ミディアム」「ハイ」「シティ」の用語は、こちらの区分に属するものだ。

それは、浅煎から深煎へと順番に、

①ライトロースト

②シナモンロースト

③ミディアムロースト

④ハイロースト

⑤シティロースト

⑥フルシティロースト

⑦フレンチロースト

⑧イタリアンロースト

の8段階で表すものである。

ところが日本では、まだまだ馴染みの薄い用語であるため、

これらの区分に、先ほど紹介した日本の区分を併記して表すことが一般的となっている。

例えば、

ライトローストは極浅煎

シナモンローストは浅煎

ミディアムローストとハイローストは中煎

シティローストは中深煎

フルシティローストとフレンチローストは深煎

イタリアンローストは極深煎

という具合だ。

焙煎レベルの区分
店によって異なる焙煎レベル

ところがこの区分、すべての店が共通というわけではない。

区分の指標には、

色味とモイスチャーロス(=水分喪失量)があるが、

現実には、店や焙煎士が独自の判断で自由に決めているものなのだ。

意外なことに、その点は、結構おおらかなのである。

もちろん、極端に相違があるわけではない。

あくまでも微妙な違いである。

したがって、同じシティローストの豆でも、

異なる店の豆を比較してみると、

色味が若干違っているなんてことは、当たり前の話なのである。

スウィングコーヒーの焙煎レベル

さて、スウィングコーヒーにも焙煎基準なるものが存在する。

色味を判定するプロ御用達の専用機器もあるのだが、

高額過ぎて手が出ないため、色味はあくまでも自分の目で判断している。

一方のモイスチャーロスは独自の基準を設け、

焙煎する豆ごとに、どのレベルで焼き上げるのかを決めてから焙煎し、

測定値を焙煎経過のデータやカッピングのデータともに記録している。

スウィングコーヒーの焙煎レベルは、

①シナモンロースト

②ミディアムロースト

③ミディアムハイロースト

④ハイロースト

⑤シティロースト

⑥フルシティロースト

⑦フレンチロースト

⑧イタリアンロースト

の8段階である。

☞スウィングコーヒーの焙煎レベルはコチラ

日本流に紐づけるなら、

①シナモンローストが極浅煎、

②ミディアムローストと③ミディアムハイローストが浅煎、

④ハイローストが中煎、

⑤シティローストが中深煎り、

⑥フルシティローストと⑦フレンチローストが深煎で

⑧イタリアンローストを極深煎としている。

①シナモンローストと⑧イタリアンローストは、

特定の豆にしか試みない焙煎度であることから、

普段は②ミディアムローストから⑦フレンチローストまでの6段階で焙煎していることになる。

焙煎レベルがシティローストの豆
こだわりの焙煎レベル

スウィングコーヒーのこだわりは、③ミディアムハイローストである。

質の高い酸味特性を持っている豆は、ミディアムハイローストで焙煎している。

冷めても柔らかな酸味が味わえ、

飲み終わった後も唇にほんのりとした甘みの余韻を残してくれる浅煎一押しの焙煎度合いである。

コーヒーの美味しさのメルクマール(指標)は人それぞれであるから、

これといった答えは無いに等しいのだが、

豆を焙煎する側からすると、

豆の持つポテンシャルを最大限に引き出す焙煎レベルを見つけ出せば、

最高にハッピーな気分に浸れるのは確かである。

仕入れた豆を異なる焙煎レベルごとに焙煎し、カッピングを繰り返すのもそのためである。

「自分は深煎好きだから深煎豆しか飲まない」

「浅煎好きだから浅煎豆しか飲まない」

というのは、非常にもったいない気がしてならない。

自分の好きな焙煎レベルありきではなく、自分の好みの豆を見つけて、その豆の良さを引き出す焙煎度

を好みにするというのはいかがだろう? 

少しばかり、おおらかな気持ちでコーヒーと向き合ってみると、

これまで気づくことのなかった、新たなコーヒーの魅力を発見することができるかもしれない。

それほどコーヒーは、知れば知るほど好奇心がそそられる稀有な飲みものなのである。