たかが水と侮るなかれ

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日本は古来より水に恵まれた国である。

日本人にとって水はとても身近なものであり、

あって当たり前、そして、何より清らかなものの象徴であり続けた。

ゆえに、古より水に関する美しい言葉が、現代に至るまで脈々と受け継がれている。

明鏡止水(めいきょうしすい)

行雲流水(こううんりゅうすい)

などが良い例であろう。

邪念の無い清らかな落ち着いた心で、

雲や水のごとく自然のままに生きることの大切さを教えてくれる言葉だ。

正に

山紫水明(さんしすいめい)

の国、日本らしい

清澄(せいちょう)

な言葉ではなかろうか?

今回は、珈琲人から見た「水」について語ってみたいと思う。

コーヒーはそのほとんどが水である

話は変わるが、一杯のコーヒーの濃度がどれほどかご存知だろうか?

コーヒーの濃度には、実は世界標準なるものが存在する。

美味しいコーヒーの濃度は、1.15~1.35%が世界標準とされているのだ。

この指標は、

SCA(=スペシャルティコーヒー協会)が世界的に公表している数値である。

これは言い換えるなら、

抽出したコーヒー100%の内、98%強が水であることを示している。

この点の詳細については、ぜひ「TDS(濃度)計」をご覧いただきたい。

もちろん、数値で把握しなくとも、

「濃度」については、誰でも無意識のうちに判定を下しているものだ。

すわなわち、コーヒーを飲んだ際に「濃い」「薄い」の違和感がなければ、

自分にとって適正な濃度であると考えて間違いない。

逆に「濃い」「薄い」の違和感を感じたなら、

その一杯の濃度は、自分にとって不適なものであることを示している。

水の硬度でガラリと風味が変わる

さて、筆者は普段よりペーパードリップでコーヒーを抽出している。

その筆者が好んで使用する水は「軟水」である。

ところで水は、ミネラル成分(=カルシウム+マグネシウム)の含有量により

「硬水」と「軟水」とに分けることができる。

簡単な覚え方としては、水1ℓあたりに含まれるミネラル成分の量が

100㎎以下(=硬度100以下)を「軟水」

100㎎超(=硬度100超)を「硬水」

と覚えておくと良いだろう。

実は、この硬度なるものがコーヒーの風味に大きく影響を及ぼすのだ。

なお、結論だけお伝えするならば、

・「軟水」で淹れたコーヒーは、苦味がマイルド

・「硬水」で淹れたコーヒーは、苦味が非常に際立つ

となる。

実際に違いを試してみたければ、

硬度40の日本のミネラルウォーターと、

硬度304のエビアン(evian)の両方で淹れたコーヒーを

飲み比べてみるとよい。

違いは「一目瞭然」…、

いや「一口瞭然」だろう。

やはり、日本の自然水がもともと「軟水」ということもあるからだろうか?

日本人の口には、「軟水」で淹れたコーヒーが合うように筆者は思うのだが、

いかがだろう?

ph値も見逃せない

ちなみにもう一つ、硬度以外の要件を付け加えるならば、

それはph値が7.4に近い弱アルカリ性の水を選ぶということだ。

このph(ペーハー)値は1~14の値を採る。

中性は真ん中の7である。

7より値が小さければ酸性、大きければアルカリ性を表す。

一般的に、人の体のph値は7.4程度の弱アルカリ性とされている。

したがって、人はその値に近い弱アルカリ性の水で淹れたコーヒーを美味しく感じやすい。

当然、現在市販されているミネラルウォーターには、硬度もph値も表示されている。

ぜひ、水選びの際の参考にして欲しい。

日本の水道水は軟水

もちろん、コーヒーを淹れる水は水道水でも良い。

蛇口を捻れば「安心・安全な水」が出るというのが日本の建前だ。

しかし、昨今の健康志向から、

浄水器を取付けたり、水道水用ウォーターサーバーを使用している方も多いことだろう。

それは、残留塩素やトリハロメタン、さらには鉛製の給水管問題が影響している。

さらに集合住宅の場合には、貯水タンクの衛生問題などもある。

そこまでの装置を取付けないまでも、

口にする水道水は、必ず沸騰させた水を使用するという方もいるだろう。

この健康に対する安全性の面は別として、

コーヒーに合う水であるかどうかだけで判断するならば、

日本の水道水は、そのほとんどが軟水である。

したがって、水の硬度からは、コーヒーに適した水と言えるだろう。

地元の名水を忘れるな

さらに、地元に昔ながらの有名な湧水があれば、そうした名水を利用しない手はない。

石清水(いわしみず)

という言葉があるように、日本には、全国のいたるところに自然の湧水が点在している。

もちろん、筆者の地元にも名水が存在する。

よく利用するのは、

「錦竜水(きんりょうすい)」

と呼ばれ親しまれている湧水だ。

データがあるわけではないが、飲んだ印象からすると、

硬度は明らかに軟水、

phは弱アルカリ性の水であろうことがすぐに解る。

この錦竜水(きんりょうすい)で淹れたコーヒーは、

市販のミネラルウォーターで淹れたコーヒーよりフレーバーが冴えるのだから不思議である。

ところで、この錦竜水(きんりょうすい)は、誰でも自由に無料で汲み取れるものだ。

そのため、折に付け筆者はこの湧水を利用している。

さて、今回は、珈琲人の視点で「水」について紹介してみた。

「水へのこだわり」も、コーヒーを愉しむ上での重要なファクターの1つである。